出生の秘密(4)仮死状態のマーヤ
いよいよ手術の日がやってきました。
前の日の晩ごはん以降は絶食。夜9時以降は水分を摂るのもダメだったので、午後3時からの手術開始までノドが乾いて仕方ありませんでした。なぜかやたらに「バナナジュース」が飲みたかった記憶があります。
帝王切開の手術は局部麻酔で行われます。ですから、赤ちゃんを取り上げた直後にお母さんは自分の手で抱いてあげることもできます。双子の出産の場合は二人分取り上げないといけないので、途中で麻酔が切れてしまうこともあるそうです。そんなことになったらどうしよう・・・とドキドキで手術室に向かいました。
局部麻酔の注射は背中から入れます。「この注射が痛いのよ〜」と帝王切開経験者の入院仲間から聞いていた私は、さらにドキドキ。まずは、手術台の上でエビのように背中を丸めます。妊婦ゆえ、おなかが大きく、うまく丸まらないので看護婦さんが手伝ってくれます。(っていうか、押さえつけられます)
ついに麻酔の針が背中に入ります。
(コワイ、イタイ、キャー)
1回目は上手くいかなかったようです。気を取り直して2回目。
(ヤッパリコワイ、イヤー、キャー)
2回目も上手く針が入らない模様。続いて3回目。
(イタイヨー、コワイヨー、ヤメテー)
なんと3回目も上手く入りません。麻酔科の先生と相談する私の担当医。4回目、5回目にチャレンジ。私は恐怖と緊張でヘトヘト。心の中で(先生、明日に延期してください)と叫びました。
20歳の時に椎間板ヘルニアの手術を受けた私は背中(腰)に大きな手術の傷跡があります。この傷跡の部分の皮膚が固くなっていて、麻酔の針が上手く入らなかったようです。
麻酔科の先生と相談した結果、局部麻酔はやめにし、全身麻酔に切り替えることになりました。まずは本人(私)の承諾を求められました。そして手術室の外で待っている夫の承諾を取り付けに行かれました。
全身麻酔はかなり低い確率ではありますが、麻酔がかかったまま、元に戻らないケースもあるそうで、本人・家族の承諾が必要になります。「承諾」といっても、選択の余地はありませんので、私も夫も全身麻酔に承諾しました。ただ、出産の場合は手術に時間がかかると、おなかの中の赤ん坊にも麻酔がまわってしまい、危険な場合があります。しかも私の場合は二人分の出産です。
全身麻酔で危険にさらされるのは子宮口の近くにいる「小さい子」ではなく、奥にいる子でした。短時間で二人の赤ん坊を取り上げなくてはならない・・・先生の緊張感が私にまで伝わってきました。
麻酔がかけられ「いーち、にー、さーん・・・」、私は深い眠りに落ちました。
気が付くと病室でした。赤ん坊はいません。おなかの中にも、もういないことが不思議な感覚でした。
そばに付き添ってくれていた夫に「子供は無事?何グラムだった?」と聞きました。二人とも女の子で無事に生まれたそうです。最初に取り上げられた小さい子(長女・サーヤ)は1800g、その後に取り上げられた次女・マーヤは2300gでした。
二人の出産時間は15分違い。最初に取り上げられたサーヤは元気な産声をあげたそうですが、マーヤは麻酔がまわってしまい、仮死状態で生まれました。
二人はすぐにNICU(新生児集中治療室)の保育器に移されました。移送の様子を見ていた夫によると、「小さい子(サーヤ)」はかなり苦しそうな顔をしていたそうです。おなかの中で十分に栄養がいきわたらず、ひもじい思いをしていたのかも知れません。
仮死状態で生まれたマーヤも意識をとりもどし、なんとか無事に保育器の中で発育をはじめました。
二人が生まれたのは水曜日。私が子供たちに会えたのは、それから3日後の土曜日のことでした。
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